08 January

種選びから料理まで ~家庭菜園のあるちょっと贅沢な暮らし

こんにちは。このコラムを執筆させていただきます高橋有希です。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、千葉県千葉市にある菜園で「農業実践教室」という教室を開いています。そこで、農薬や化学肥料を使わない野菜の作り方を一般の方にお教えしています。

教室の菜園は、のんびりとした田園地帯にあります。約4,400m²の菜園で年間50~60品目の野菜やハーブを育てており、一年中何かしらの野菜を収穫できるため、自分で食べる野菜はほぼ自給です。
教室の菜園は、家庭菜園より規模が大きなものになりますが、量よりも美味しさを大切にし、大勢の受講生の皆さんと一緒にワイワイと楽しみながら野菜を育てています。このコーナーでは、私が菜園のある暮らしの中で見つけた野菜たちの楽しい話、美味しい話などをお伝えしていきたいと思います。

DSC00540 DSC00542 DSC05409

「とれたて」という贅沢を楽しみましょう!

さて、菜園のある生活の最大の楽しみは、なんといっても「とれたて野菜を食べること」でしょう。

野菜の美味しさを決める要素は色々とありますが、その中でも「鮮度」は重要な要素の一つです。収穫後に熟成させることで美味しくなるイモ類等は別にして、たいていの野菜はとれたてが美味しいのですが、なかでも特に鮮度が大事な野菜は、スウィートコーンとエダマメです。スウィートコーンは、収穫後2日経つと糖度が2度低下すると言われ、枝豆は2日経つとアミノ酸も糖度も50%低減すると言われています。実際に自分で作っていても、スウィートコーンと枝豆は、鮮度第一だと感じています。自分達が作った同じトウモロコシでも、とれたてを畑で食べるのと家に持ち帰って数日後に食べるのとでは、別物と思うほど味が違います。
これら以外にもトマト、ソラマメ、ブロッコリー、カリフラワー、ズッキーニ、レタス、キュウリ、ルッコラ、キヌサヤ、スナックエンドウ等は、やはり鮮度の良さが味の良さに大きく影響を与えていると感じます。 さて、今年の皆さんの菜園計画にこれらの野菜は入っていますか?

奥深い野菜。お気に入りの「品種」を探してみましょう

もう一つ、美味しさを決定づける要素は「品種」です。品種というのは、キャベツ、トマト、ニンジンといった「品目」というくくりの下のもう1段階細かいくくりのことです。同じ品目でも品種によって味にとても差があることがあります。
たとえば、ニンジン。ニンジンの品種はいろいろありますが、ニンジン特有の香りが強い「黒田五寸」、糖度が際立って高い「ベータリッチ」、関西ではおせち料理に必ず入っている真っ赤でスリムな形が特徴の「金時ニンジン」等の品種があり、それぞれはまるで別物の味になります。また、お店で一般的に売られているキュウリは、流通途中で傷まないよう、さらに店頭で日持ちするよう皮の厚い品種であることが多いのですが、「四葉(スーヨー)キュウリ」といって皮が薄くて日持ちしないけれど、香りも味も濃くてジューシーな品種、というものもあります。
品種は、種苗メーカーによってどんどん改良され、新しいものが出てきています。改良の内容は、味、耐病性、形、栄養価等様々です。改良された品種は、概して育てやすいです。味は・・というと、正直言ってまちまちですが、全般的に良い味のものが多いので安心してください。
一方、昔ながらの改良されていない品種は、少し癖がありながらも味の良いものが多いです。ニンジン、ホウレンソウ、ダイコンやカブ、トウガラシ、長ネギ、冬瓜等は、昔ながらの品種に味の良いものが多いです。 品種はたくさんあり、どれを美味しいと思うかは好みにもよるのですが、品種の選び方ひとつで野菜の味や食感は大きく変わります。新しく試してみた品種が美味しかった時は、本当に嬉しく、菜園仲間との野菜談義も大いに盛り上がります。
1月は、春夏に菜園で栽培する野菜を最終決定する時期です。種を販売する会社が、カタログやインターネットのサイトで色々な品種を紹介しています。カタログ等を読み比べて、今年育てたい品種を選んでいくのも楽しい作業です。珍しい海外の品種や昔ながらの品種に興味がある方は、そうしたものを専門に扱っているインターネットのサイトもありますよ。

試行錯誤をしながら腕前を上げて、いつの日か究極の美味しい野菜を!

野菜の美味しさを決める要素の最後が「腕前」です。それは、いわゆる土づくりや細かい栽培管理技術という少し難しい分野の話もあるのですが、比較的分かりやすい「水のやり方」や「栽培する時期」「収穫する時の大きさ(生育段階)」等をどうするか、ということも腕前の一つです。

たとえば、トマトは、水を極力控えて育て、収穫も雨続きの日より雨がしばらく降っていない時に行った方が美味しいです。逆に、ナスやキュウリは、水をたっぷりとあげて育てた方が美味しくできます。また、コマツナは、生育途中のまだ小さな頃に収穫すれば、柔らかくてサラダに使うと最高の素材ですし、大きくなって葉に厚みが出た頃に収穫すれば、味が濃く、炒め物で食べるとシャキシャキ感が残ってとても美味しいです。

こんなふうに、野菜はちょっとした環境の違いや収穫時期の違いによっても味が変わります。慣れないうちは失敗もあるかもしれませんが、腕前を上げて突き詰めていけば、自分が食べたいイメージ通りの究極の野菜を作れるかもしれません。

P8030241 PC070981 野菜02

お料理が苦手な方こそ、自家菜園の野菜でお料理を!

自家菜園の野菜は、美味しいです。何より新鮮ですし、品種も収穫時期も自分で選べるからです。
野菜が美味しければ、難しいことをしなくても美味しい料理ができます。というよりむしろ、凝った味付けをしてしまうと野菜の良さが隠れてしまってもったいないかもしれません。

たとえば、この時期のカブ。味は甘く、実はビッシリと詰まって食感も最高ですので、シンプルに料理しましょう。ソテーやお吸い物は、冬のカブの美味しさを最も味わえる料理のひとつです。

DSC061992カブのソテーは、簡単です。フライパンに、くし切りにしたカブを並べます。その上から油を適量まわし入れ、弱火でフライパンに蓋をしてじっくりと蒸し焼きにします。カブの皮は、剥かなくても大丈夫です。焼き加減は切断面にうっすらと焦げ目が入るくらいがちょうど良いです。火が通ったら塩(にがりを含んだ天然塩がおすすめです)を軽く振って出来上がり。ホックリして、噛むごとに甘味が口の中にジュワ~ッと広がります。

カブのお吸い物は、上手に出来るとそれだけで料亭気分を味わえます。お吸い物の出汁は手作りがオススメで、昆布出汁がすっきりとしてよく合います。
これも作り方は簡単です。出汁に料理酒、塩、ほんの少しだけ薄口醤油を入れて味を調えたら、カブを入れて柔らかくなるまで加熱します。この段階の出汁の味は「ほぼ昆布塩味」で、醤油の風味は少し物足りないくらいが良いです。お椀によそった後、いただく直前に柚子の皮をひとかけら入れます。この柚子の香りが、先ほどまで少し物足りなかった部分を埋めて、バランスの良い上品な味のお吸い物が完成します。お吸い物のカブは、じんわり甘く口の中でとろけて、柚子の香りたっぷりの塩が効いた出汁によく合います。